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変身 3

 あら? と声を上げて私は、オンボロ小屋の前で立ち止まって辺
りを見回した。
出る前に集めてためておいたこんもりとした枯葉の山が、全部綺麗
さっぱり無くなっている。
庭師か、清掃係が持って行ってくれたのだろうか。
ここまで管理に来てくれる奇特な人は、私が勤務した一年半の間に
は、ほとんど居なかった。
だからゴミは私が集めて焼いてしまうか、まとめて焼却場まで捨て
に行くか、どちらかだったのだ。
エレンが気を利かせてくれる事はまず有り得ないので、恐らく、珍
しく誰かが処分してくれたのだろう。

「ただいま戻り……何これ」

 返事の無い応接間の真ん中に、何かが転がっていた。
近くでしゃがみこんでまじまじと眺めると、それは古びた黒猫のぬ
いぐるみと、壊れた虹色の鳥のおもちゃだった。
黒猫のぬいぐるみの方は色あせて、あちこち縫い目がほつれてわた
が飛び出している。
南国の鳥を模した虹色のブリキおもちゃの方は、羽が片方折れて、
錆びて曲がっている。
間違いなく、廃棄対象に属する類の惨状だ、つまりはゴミ。
恐らくはブラックあたりが咥えて来て転がしたのだろうと私は苦り
ながら、それを拾ってゴミ箱に投げた。

 ガマガエルの形をした大きな置物が、ゲロゲロッと不気味な声を
上げて、それを舌で絡め取ってぱくりと飲み込んだ。
あれも、エレンお手製の「とってもゴミが捨てやすいカエル君」だ。
ゴミを飲み込む仕草の気持ちの悪さもさることながら、奴の腹を開
いてゴミを引っ張り出すのはもっと気分が悪い。
気が進まないけれど、そろそろゴミも溜まった事だろう。
私はゴミを集めて、焼却場まで捨てに行く事に決めた。

(私が居なくなったら、ちゃんとするのかしらね)

 ゴミを増やす才能はあれど、実用的な才能は皆無の私の上司は、
この先は一体どうするつもりなのだろうかと改めて心配になる。
私が昨年の春に配属されて来た時には、足の踏み場も無いこのボロ
屋を目にして倒れそうになったものだ。
それを片付けて、修繕して、ここまで快適な棲家にしたのだから、
私の功績は評価されてしかるべきだ。
……掃除婦と家政婦としての、だけれど……。

 車輪の付いた大きなダストボックスを後ろから押しながら、今日
はいい天気だと私はお日様を仰いだ。
道端のベンチには、貴重な太陽の恵みを満喫しようと即席の弁当を
こしらえた職員がピクニックに興じる姿が見受けられる。
冬になれば曇天が続くのだから、気持ちは良くわかる。
私も後で、食堂でサンドウィッチを包んでもらって外で食べようか。

 そこで私はエレンの姿を発見した。
お気に入りのピーナツバターのサンドウィッチを手に、エレンはベ
ンチに腰掛けて、一人でランチとしゃれこんでいるみたいだ。
エレンは口を開けてサンドウィッチに顔を寄せた所で、ぴくっと何
かに反応して、後頭部をさすり首を傾げる。
再びかぶりつこうと口を開けたエレンは、又、ぴくっと顔を上げて、
頭をさすりながら振り返った。
そして不思議そうに首を傾げて、食事に戻ろうとする。

(ん?)

 エレンの死角になっている背後に、私は挙動不審の原因を見出し
た。
芝生にマットを敷いて、何人かの職員がピクニックランチをしてい
る様子だ。
彼らは小石を拾って、それをエレンの頭に放り投げて、反応を見て
は指差して笑い転げている。
見覚えの有る小奇麗で気取った青年の集団は、やどり木会のおぼっ
ちゃま達だ。

(もー、くだらないわねっ)

 一体何が楽しいのやら、私の理解を超えている。
エレンもエレンだ、いつもへらへら笑って軟体動物みたいにクネク
ネしているから、彼らみたいな暇人にからかわれるのだ。

「ピクニックですか、ヴァテス」

 私がゴミ箱を押す手を止めて声を掛けると、エレンは平和そのも
ののぽやーんとした表情で、うん、今日はいい天気だからねえー、
と、もそもそとランチを食んだ。
全く気がついていない様子だ、有る意味幸せな人だ。

 その背後に小石が飛来するのを私はじろっと一睨み。
ぽろりと、小石がエレンの手前で止まって落ちた。
芝生に座ったやどり木会の面々が、おかしい、反応が無いぞと言い
たげな表情で私達を伺っている。
そしてもう一人が、きょろきょろと見回して新しい得物を探してい
るみたいだ。

(まだやるかっ)

 むむむっと試しに集中してみたら、その青年がすてーんとお尻を
滑らせて、ランチボックスの上に背中から落下した。
ぎゃーっ、ジュースがっ、ジャムがっ、と悲壮な叫び声が聞こえる。

(いっひっひっ、ざまあみなさいよっ)

 天罰てきめんである。
私のエレンに意地悪するからひどい目に遭うのだ。
正確には私の、では無いけれど、心の中で思う分には自由である。

 今日は染み付きのシャツで、甘い香りをぷんぷん漂わせて恥を掻
くがいいのだ。
人を呪わば穴二つ、彼の糊の利いたシャツは、もう使い物にならな
いであろうが因果応報なのである。
ちなみに私のは呪いでは無く、正当防衛である。

 笑いを堪えながら私は、つーんと顔を高く上げてしゃなりしゃな
りとエレンに一礼。
私の動きに従って傾いたゴミ箱の中身に視線をやったエレンが、ぎ
ょっとした様な顔をしておもむろに立ち上がった。
中を覗きながら、エレンがこわごわと指差す。

「アギレラ。それ、どうする気」
「このおもちゃですか? 部屋に落ちていましたわ。ブラックった
ら嫌ですねー、ゴミなんて拾って来て。……あら。……ゴミ、でい
いのですよね。ヴァテスの大事な何かですの?」
「う、うううううんん? 君の目にはゴミに見えるんだ。そう、う
ん、そのおもちゃは。知人のお子さんに預かった物で、修繕を頼ま
れているのだよ。だからその、ゴミじゃ無いんだ。私に渡してもら
えるかな」
「ええっ!?」

 私は黒猫のぬいぐるみと、ブリキの鳥を慌てて引っ張り出してエ
レンに手渡した。
余りにも汚いので、勝手にゴミだと決め付けてしまった。
いけないいけない、気を付けなければ。

「申し訳有りません、粗忽な振る舞いをいたしまして」
「うん、いいよ。放り出しておいた私もいけないし。出来たら捨て
る前に私に聞いて」
「はい」

 危うく失敗する所だった。
捨てられてしまったら、知人のお子さんがさぞ悲しまれた事だろう。
ここでエレンに会えて良かったと思いながら私は、ダストボックス
を押してその場を立ち去った。

 頭をさすって私は、やっぱり調子がいいみたいだと再確認する。
これだけ大量に使っても、頭痛もしないどころか、前より力が強く
なった様に思う。
前は紙切れ一枚動かせなかったのに、さっきは人を転ばす事が出来
てしまって、それには自分でも驚いた。

 この奇妙な「特技」は、子供の頃から有った物だ。
昔の人間には大なり小なり備わっていたらしいが、現代人にはほと
んど現れなくなってしまったのだそうだ。
うちの界隈に住んでいたいんちき術師には、生まれ持っているエネ
ルギーが強い人間に、稀に先祖返りが出るのだと聞いた。
魂だか、本質だかが、原始の人間並に躍動感溢れて強力だと、この
手の特殊な感性を余分に持って生まれる場合が有るらしい。
なるほどこの子なら有り得ると周囲に納得された私の立場はどうな
るという感じだ、このおしとやかな私に対して失礼極まりない評価
だと思うのだ。
だが、これもそれなりに役に立っているからまあいいだろう。

 この手の能力は、思春期を終えると無くなるケースも多いらしい
が、私は逆みたいだ。
頻繁に使っているわけではないからはっきりとはわからないが、こ
こ二年程、特に就職した頃から強くなった気がしてならない。
そしてここ一ヶ月程は、それが顕著になって来た。
異常な程で自分でも気味が悪いが、便利だからまあいいだろう。

 世のため人のため頑張る私への、神様のご褒美に違いない。
お陰で先ほども、エレンを苛める悪い奴を成敗出来たではないか。

(神々よ、讃えあれ!)

 普段は無神論者であるのに、何とも都合のいい話だ。

 ふっふふーん、今日もいい事が有りそう。





「なあーにをやってる、お前達は」

 エレンが呆れたように呟いて、膝掛けの下に隠したその盛り上が
りを、とんとーんと、各二回、リズミカルに指で突いた。
二つの山がもこもこと動いて、膝掛けの端から、タスカッターと顔
を出したのは猫のブラック。
その後ろから、クサイわクサイわと鳴き声を上げて頭を出したのは、
レインボー。

「そりはアタシがキきたいわっ。アギレラチャンがヘヤにハイッて
きたらね」
「そうよっ、イキナリよマスター」
「ああ……もしかして、元に戻っちゃった?」
「ソウ、ソウなのっ! ジュツがト毛て! それでワタシタチころ
がったのガみつかって!」
「アギレラチャンが、五みにポイよっ! カエルにまっカササマ」

 ひどいわひどいわ、そんなに汚いかしらっ、と自称洒落者のレイ
ンボーが翼に顔を伏せて、よよよと泣き崩れた。
いくら術が解けて元の姿に戻ったからと言って、あまりの仕打ちだ、
ゴミの中で息が詰まりそうだったと、早口でレインボーが訴えた。

「私には、お前はとっても素敵なレディに見えるよ。余り気にしな
くてもいいと思うけど」
「ウソよっ! だあってゴミにポイよっ」
「マスターちっともナオしてくれないのからよ、ひどいっ」
「ガラクタはツクるのに、ワタシはナオしてくれないのっ」
「わ……わかった、今日直すから。ちゃんと縫って、サビも取って
綺麗にしてあげるから、ねっ」

 興奮して詰め寄る使い魔を宥めつつ、エレンは慌てて彼らに膝掛
けを被せて、しーっと制した。

「駄目だろ、お前達が喋ったら、怪しまれるじゃないか」
「ワスレてたっ」
「誰もがアギレラみたいに見逃してはくれないよ」

 喋る猫なんて、見つかったら研究材料行きだよと脅すと、ブラッ
クはしゅんとなって膝掛けの下で小さくなった。

「でも、マスター。ドウしてワタシタチ、モトにモドッっちゃった
のカシラ」

 小声でひそひそとブラック。
上向いた黒猫のあごをふわふわ撫でると、彼は気持ちが良さそうに
喉を鳴らして目を瞑った。

「どうしてだろうね。恐らくアギレラが、無意識に見ちゃったんじ
ゃないかな。術をすり抜けてお前達の本当の姿を。それで、均衡が
崩れて妙な事になったんじゃないかなあー。推測だけどね」
「えー、あのコってそんなスゴイコなのっ?」
「いいや。ちょっと勘が鋭い所は有るけれど、あの子はあくまでも
普通の人間だよ」
「じゃあ、ドウシテ」
「私の影響」

 二匹がはっと胸を突かれて沈黙すると、だと思うよ、これでわか
っただろう、と、遠い寂しそうな目をした主は言葉を濁した。
それから彼は、お前達が居るからいいんだよと、交互に二匹を撫ぜ
てから、にこりと小さく微笑んだ。





 あの日も、こんな快晴だった。

 季節は春と初冬で違うけれど、雲一つ無い真っ青な空。
そこに沢山のトンボがのびのびと飛び立って行くのを、私は口をあ
んぐりと開けて見上げていたのだった。
エレンが何かを呟いてさらさらと砂を掛けるような仕草をした途端
に、トンボが羽ばたきだしたのだ。
一体何をしたら、こんな事が起きるのだろうと私は、エレンとトン
ボとを交互に目を丸くして見た。

 腕を広げて全てのトンボを放ったエレンが、手の平を額に当てて
嬉しそうにそれを見送って、私を振り返った。

「叡智は脳に宿り、探究心は魂に宿る。真理は万物に宿り、三つの
杖持つ者に賢才の翼は舞いおりる」

 彼は胸に手の平を当て、学院で最初に学ぶ魔道士の心得をすらす
らと述べた。
大賢者グレンノールが残したと伝えられる言葉だ。
彼の口から出るとまるで彼の為に作られた言葉の様に、それはしっ
くりとはまった。

 そらんじてエレンは、観客に対する役者みたいに、やけに堂に入
った仕草で優雅に一礼した。
ヘーゼルの髪が、エレンの後頭部をさらさらと前に流れる。
それからエレンは体を起して、私に向けてこうも言った。

「研究は、どこででも出来る、探究心さえあればね。そしてね、ア
ギレラ・アン・アーヴァンホー」
「はい、ヴァテス」
「本道を外れた者には、神々は知恵を授けては下さらないよ。魔道
とは、そうしたものだ」
「そうしたものですか」

 彼の意図を測りかねて私が、鸚鵡返しで同じ言葉を口にする。
全くもって間抜けにも、私はエレンの術に度肝を抜かれて、言葉が
上手く出て来なかったのだ。

「私の所においで。君には、ここは向いてない」

 エレンはそれが、ずっと前から決まっていた事実であるかのよう
に、当たり前だと言いたげに、私に向かって。
私は、エレンの詠うようなその誘いの言葉に、自分を惹き付ける不
思議な感覚を覚えた。
まるで、それが決まっていたかの様な、予定調和であるかの様な、
奇妙な安心感。
私は頭を振って、抗うように無愛想に彼に返した。

「……向いてる、向いてない、ではなく。私は、目的が有るから入
りたいのです」
「それは、ここで無くてはならないのだろうか」

 エレンが二歩進んで私の前に立つ。
そして問いかけるように、ヘーゼルの両目でもって、じっと私を見
下ろした。
私の迷いを見透かすようにまっすぐな、力強い綺麗な目。

「紙のトンボは空を飛ばないと思ってた? では、ハンケチは? 
何にも成り得ないと、君は思う?」

 エレンが手首をなめらかにくるりと翻すと、胸に挿したレースの
ハンケチが、彼の手の中で瞬く間に白い薔薇に変わった。
目を丸くする私の手を取って、エレンはそれを握らせた。

「はい、どうぞ」

 香り高い本物の白薔薇だ、有り得ない話だ。
私が目を凝らして、花を何度も裏返す姿を眺めて、エレンは満足そ
うに破顔した。

「あなた達が思うより、これにはずっと沢山の可能性が有るのだよ。
君の目的とは、一つの道でしか達成されないもの?」
「……いいえ、わかりません。でも、私に今、考えられるのは」
「もっと自由に探せたら。ずっといいと思わない?」

 自由に。
それは、例えようも無く甘美な響きだった。
今まで不自由だとは思わなかったけれど、だけど。
自由に、自分の思うままに好きな道を選べたらどれだけ楽しいだろ
うかと、私の心はぐらりと揺れたのだ。

「何かを破壊するだけがすべてじゃないよ。生み出すほうが、ずっ
と有益だと思うけど」

 エレンのその一言が留めだったに違いない。
倒壊寸前の塔のような私の中のぐらぐらはすでに、完全に地面に倒
れかかっていた。

「私ならそれを、教えてあげられる」

 やけに自信ありげなエレンが、威厳有る賢人の様に、私には思え
たのだ。
今思えばそれは錯覚であって、私の生涯最大の勘違いであったわけ
なのだけれど。
その時の私には、彼の意味深な言葉が啓示にも思えたのだ。

 それに、気持ちが良かったのだ。

 その場に居た全員が、私と同じく口をぽかんと開けて、間抜けな
顔でトンボを見上げるその様が。
エレンの手の中で、ハンケチが薔薇に変わった瞬間のどよめきが。

 抜けるような真っ青の空の下で、居並ぶ観衆が、童心にかえって
魔法使いに魅入られる瞬間。

 魔道士では無く、魔法使いと呼ぶのに相応しい瞬間。
私は、そのワクワク感を身をもって知ってみたかったのだ。
こんな風に鮮やかに、何かを変える事が出来る魔法使いに、なって
みたいと思ったのだ。

 そして私は、エレン特別部に就職する事に決めたのだった。





 私は机に座って引き出しを開け、今朝方母から届いた手紙を開封
して目を走らせた。
父の状態、依然として悪し。
そうしたためられた手紙をため息と共に丁寧に畳んで、私は引き出
しに戻した。

 怪我が元で父様は近頃塞ぎこまれて、それは見ていてお気の毒な
程なのだそうだ。
私はだから、帰らなくてはならない。
私が父様をお助けしないで、誰が領地を守ると言うのだろう。

 命に別状が有るわけでは無いけれど、父様にはもう、領主の激務
を続ける事は難しいだろう。
平時ならば、近侍の手を借りて勤める事が出来るかもしれない。
けれど翌春にはまた、大掛かりな出兵が有ると噂されている。
我が国と隣国との間で、土地の処遇を巡って争いが起きる気配が濃
厚なのだ。
寒くて貧しい隣国では、常に新しい肥沃な土地を求める火種がくす
ぶっている。
戦争を始める理由はいつだって、土地とそれに絡んだ利益なのだ。

 兄様を奪った戦争。
領地の父親や兄や夫や恋人を連れ去る戦争。
残された人間は、それでも生きて行かなくてはならない。
女性達はすべての仕事を逞しくこなして、子供はそれを助ける。

 小さな頃に私は、石垣で囲われた都市の中を自由に動いて回って、
平民の子供と交わって遊んでいた。
そして、他の子供達と一緒になって、きゃーきゃーはしゃぎながら
トンボを作っていたものだ。
女子供に割り当てられるトンボ作りや軽作業は、工作遊びでは無く、
家計を助けるための仕事だった。
その時は意味もわからず喜んでいたけれど、義務だと分かってくる
と、トンボ作りだって苦痛以外の何者でも無くなってしまうのだ。

 例えば。

 エレンが空に放ったトンボが、そんな子供達の上に飛来したなら
ば、彼らはどれだけワクワクするだろうかと。
そう思うのは私が、まだまだ夢を見ていて甘い証拠なのだろうか。
あの場でトンボを見上げた人々のキラキラした目を思い出すだに、
私は。
人の心を煌かさせられる様な何かを、この手で作ってみたいと思う
のだ。

「……くしゅんっ」

 寒いわね。

 ぶるっと震えて私は、肩に掛けた毛布を掻き寄せた。
そういえば、今日は早く寝ようと決めていたのだった。
こんな寒い夜は早く布団に入って、暖房費を節約するに限る。





 一人が寂しくて、とてもとても寂しくて。
それで、ある日目に付いたおもちゃを拾って、戯れに生命を吹き込
んだマスターは。

 きっと本当は、一番、あの子を帰したくないと思ってる。

 でも、そうしないと駄目だと、きっと自分に言い聞かせて。
それが、あの子のためだと自分に言い聞かせて。

 いつだってとっても、可愛がってくれてるけど。

(ワタシタチじゃ、ダ目なのよレインボー)
(ウン、九ヤシイけど、そうなのよブラック)

 しょんぼりと垂れた首を並べて使い魔二匹。
月を見上げて無力な自分に、ため息ひとつ。


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